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悲しき軽運送屋の顛末記-26 [顛末記]


★Photoはイメージです。

軽運送の中に「チャーター」という業務がある。今まで空港ではスポットが主な仕事だった。目的の場所、一箇所に配達して終了。後は帰路につく。これと似てはいるが拘束時間や配達内容が少し違い、地元のE社に来てから目立って多くなったものだ。
半日とか一日のそれも一週間に数回とか、一ヶ月とか定期的に数箇所を回り配達だけではなく集荷(荷物を集めて持ち帰える)したり、その荷物を次の場所に配達するなどの業務である。運輸会社から荷物を積んでいく場合もあるが、一般の会社に指定時間に出向いて荷物を受け取りそれを配る場合もある。

また、ロッカーや物置とか、大物ではユニットバスなどもあるが、軽1Boxでは無理で幌型トラックが主である。家具をホームセンターやメーカーから会社・民家に配達した後に組み立てまでの条件で料金を貰うこともある。特別に講習を受けているわけではないので取扱説明書だけが頼り、家人がやる気になれば出来る簡単なものもあるが、不器用な人には向かない仕事だ。
ここまで来ると便利屋に近い。流石にごみ捨てとか廃品回収は特殊だが、注文があればやることもある。ただし産廃などは免許がいるのでそれなりに許可を持っていなければお断りする。

考え方によっては「引越し」も一種のチャーターかもしれない。お客の住まいまで出向き、家具などを載せて新居に配送、下ろしてからセッティングまですることもある。殆どが一日仕事である。たとえば、次の住まいが一戸建てとか、マンション・アパートの一階の場合は比較的楽だが、会員一人で5階のような上階層に大物を運ぶとなるとこれは厄介だ。かなり厳しい仕事と覚悟しなければならない。

[こんなことがあった、その21]
ある日、家具店から高そうなかなり重い、しっかりした木製の机を運ぶことになった。私一人ではない。積むのは一台なのだが二台で出向くことに。それだけ重量があると言うことだ。パートナーになったのは60代も後半の温和だが仕事に対しては「適当」としか言わざるを得ない人物だった。
荷物は私の車に積み、ルートも調べずにこちらの車について来る。しかし、仕事の依頼を受けたのは私ではない。その男性会員の方だ。伝票も彼が持っている。仕事の主な責任者なのだ。私は助っ人なのだ。


★Photoはイメージです。

数時間走ってその家に到着した。高価な家具を買った証のように新築の立派な建物だった。到着したからといって彼は何もしない。私がチャイムを押し家人との挨拶、どの場所に置くかを確認して荷おろしが始まった。が、これが頼りない。机というからには引き出しがついている。傾ければその引き出しが開いて落ちてしまう。何故かこの家具、普通は傷防止のための梱包をしていなかった。勿論、机そのものに引き出しを止めるテープなど、後で跡が付かないために使ってはいない。
彼に気をつけるように言って運び込むことにする。庭から回って横の出窓から入れる。ドアからは幅が大きくて入らないのだ。
なんだかヨレヨレしていて心もとない。家人も「気をつけてくださいね」と言われるほど左右に傾いてはゆっくり進む。私が先に履物を脱いで家にあがることにした…と言うことは中腰で不安定、力が入らない。下(外)にいる彼のほうかシッカリ支えてくれないと机を落としてしまう。
「しっかりもって!」といったのがいけなかった。彼が傾いた机を真っ直ぐに修正するために右手に力を入れた。その瞬間机は大きく左に倒れていった。程度と言うものが分からないのだ。必死になって私は受け止めた。多分腰が軋んだと思う。それほど重量のある家具だった。

「あっ」と思ったが持ちこたえたはずだった。その家具が部屋の中に何とか納まったと思った瞬間、悲鳴が聞こえた。いや、罵声かもしれない。その一部始終を見ていたのは、この家の婦人である。その女性が指差す先を見て愕然とした。
新築の壁のカドが凹んでいたのだ。確か、持ちこたえたと思ったのだが、あたったのだ。ほんの少し。新しく貼った壁紙の中の塗り壁はまだ乾いていなかったらしい。指で押してもブヨブヨなのだ。私は元に戻るか押してみたので分かった。見た目は殆ど直ったのだが、その婦人が勿論承知するはずが無い。やはり専門業者に頼まなければならない。「確かに凹んでます。こちらのミスですので会社に連絡して対処いたします。申し訳ありません。」と謝った。が、彼女は半狂乱になっていた。多分私の声は大部分聞こえなかったのではないかと思われる。自分の叫ぶ大きな声で。私のパートナーはといえば我知らず…さっさと車に戻ってタバコをふかしていた。

責任者なら、万が一自分の不注意でなくとも謝るところ。だからと言って全てが私一人の不注意で、なってしまった事故ではない。こちらとしては「貴方が力を入れすぎたからだ」と言いたいが、責任のなすりあいをしても仕方が無いし、現実に私も携わっていた以上、謝るしかない。同等だと思った。しかし、彼は知らん顔。

これが後で問題になった。誠意を見せない。従事した業者が誤らなかった。と家具店にクレームが入った。
このような事故はよくある事なのだ。注文したほうは新築の家を傷つけられる行為に諦めがつかないのだろうが、大手運輸会社の特に引越し専門業者は事前に家屋をチェック、引越し時には家具がぶつかるのを防止するために壁(特にカドには)に厚手のシートを巻き、それから運び入れる。それでも傷は出来るもので一件の引越しで4~5箇所は事後に見つかる。これは有名なY社の社員から聞いたのだからほぼ正確だと思う。

だとしたら頼んだ、まして新築の家はたまらないと思うかもしれないが、そこはプロ、チャント保険に入っているし、その為の専門業者と提携している。
私も知り合いの住宅の新築・引越し・補修に立ち会ったことがあるが、それは何事も無かったように綺麗に直るのだ。正確に言えば傷(凹み)を分からないようにするのだが、それも駄目だといったら引越し業者は誰も来てくれないだろう。極力注意は払うのだか、人間のやることでミスがないように100%は出来ない。まして家具などの大きな重い物を一日という時間が決められているのだから、ある程度の早さが要求されるのである。仕方がないと言ったら無責任だろうか。

勿論、軽運送とは言いながら、こういうときの「保険」には入っている。家具店もその対処の方法はわかっている。私は内心申し訳ないと思っていたが、直ぐに連絡をし上司(この場合は家具店の責任者)に報告、以後の対処はそちらでやることを婦人に告げた。のだが、これがさらに火に油を注ぐ結果になってしまった。「事務的過ぎる謝罪の姿勢がない」と見られたのだ。こちらとしては一刻も早く手配してスムーズに解決と思っていても、彼女は諦め切れないのだろう。折角の新しい家なのだから。

この問題は半年も続いたらしい。せめてもう一度訪問して「謝らなければ」と思ったが、それは叶わなかった。私たち担当の業者が直接顔を出すと話が複雑になるばかりだと、担当者がストップをかけたのだ。さらに彼女、帰って来た主人に事件のいきさつを大袈裟に話したらしい。無いことまで。
今度は夫婦一丸となって抗議してきたという。
最後には傷をつけたという問題が摩り替わって、業者の誠意のなさの言い合いになったのだ。直す、直さないの問題ではなくなってしまったのが残念だ。
その元凶を作った仕事を請けた会員の彼は後で聞いた話によると、軽運送を始めて2,3回の新人だったとか。まだこの世界の知識も無いうちに体験したのは不運だった。自分の車に帰ってしまったのは、その時のショックだったのかもしれない。

もし、こんな事件が自分に降りかかって来たら私はその業者を許すだろうか。些細なことかもしれない。しかし、多分そこで一生を過ごすことになる終の場所が傷つけられたのだ。毎日その壁を見て悔しい思いをするのだろうか。経験した人でなければ判らない。
ひとつだけ彼らの心情が分かるとすれば、規模(値段)は違うが、十数年前に新車を購入した時にボンネットに凹みを見つけてしまった。車好きの私としては、少しの傷も許さない。当然フードを取り替えてくれるものと思っていた。が、全てを取り替えれば塗色と隙間が微妙に違ってくるという(私の車は一台づつ手で組み立て、塗装も手塗りの半カスタムメイドである)。車全体と会わないのだ。結局仕方なしにその部分を板金で補修することになった。新車だったのである。それが傷物に…綺麗には直ってきたが、いまだにその部分に目がいく。それと同じ…いやもっと嫌な思いをしているかもしれない。私のように執念深ければ。

結局、パートナーだった彼は二度と私の目の前には現れなかったが、どうしたのだろうか。
私はといえば、責任は感じても次の仕事に相変わらず従事し、いつの間にか時が記憶を薄れさせてくれた。何時までも引きずっていてはプロとはいえない。不可抗力が故に。だが、軽と言えども運送業は車を運転して配達すれば済む仕事ではない。いろいろなことがあるのだ、その対処か出来なければやっていけない。私の失敗例か…


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