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悲しき軽運送屋の顛末記-18 [顛末記]


★Photoはイメージです

エコノミー症候群をご存知だと思う。またの名を「旅行血栓症」と言う。飛行機などで一定の姿勢(この場合は座席に座っていること)で長時間過ごし、下車? するとか、トイレに立つとかした時に血栓が肺・心臓・脳に動脈を移動し詰まらせる。その結果死に至ることもある、健康な人にも可能性のある疾患である。

軽運送の場合も同じ危険性をはらむ。飛行機で言うエコノミークラスよりまだ狭い、しかも背もたれが立っている座席に、長時間(長ければ十数時間に及ぶ)運転のための一定の姿勢を強いられるのである。配達の目的地に着いた途端に車を降り、荷卸にかかる。背伸びをしたりゆっくり運動をしている場合ではない。5年間もこれを続けていて、よく大丈夫だったと思う。連絡来た時には「嫌」だとか「疲れているのでゆっくり行きます」なんて口が裂けてもいえない商売だ。折角回してやった仕事を疎かにするな!!というところだ。

と言うのもその頃の、まさにバブルが弾けて不景気真っ只中、丸一日待機の状態が半月も続くことがある。立て続けに仕事が出た時は有難く頑張らなければならない。特に繁忙期には数日寝られないほど繁盛することもある…その後反動で暇になるのだからトータルするとさほどの収入にはならないのだが。

会員の一人が余りに仕事がないことで騒ぎ出したことがある。言ってはみるもんだ。その人、毎日のように仕事が与えられた。私たちが世間話をしている間も。
手配係が専属の仕事を探してきたらしい。つまり、その会員はいつもの仕事と専属の仕事を両方こなさなければならなくなった。寝る暇も惜しんで。一週間も続いただろうか。彼は音を上げず黙々と励んでいた、それはそうだろう。自分から欲したのだから。しかし余りの強行軍に配送の帰りに事故を起こし、車を大破してしまった。怪我は幸い軽症ですんだが、軽自動車一台廃車である(相手がどうなったかはしらない)。次の日に足を引きずりながら退会届を出したのは言うまでもない。余りにも仕事がないから文句を言ったわけだが、手配する社員からは「それ見たことか、欲を書くとこう言う事になる」と周りの会員に胸を張っていっていたが、それって少し違う気がする。上手く仕事を回すのも手配係りの技である。

[こんなことがあった、その11]
私はこの仕事で3度危ない目にあったことがある。もしかしたらこの世にいなくなっていたかもしれない。人間はどうしようもない場面にぶつかっても無理をするものだ。特に仕事となれば諸兄も経験があるだろう。

行き先は今となっては忘れてしまった。その当時のショックだけしか記憶にないのだ。空港からの行き先は多岐に渡り、北は青森、南は(西?)は兵庫まで流石に本州からは出たことはないが、一応長距離の部類に入る。そんな時は殆ど眠る時間はない。疲れもたまっているが以前にも書いたように時間厳守、次の仕事が待っていれば途中で休んでいるわけにも行かない。
そんな中で始まるのが「居眠り運転」勿論、道交法では疲労の運転は違反である。それを強要した会社も罰せられるが、個人業なので表向きは自分が請けた仕事になる。仕事を出した業者は無関係である。たとえ強要されたとしても。

場所は「高尾山の峠」を超えて配送に行くときのこと。時間は夜中の二時だ。皆は眠たくなったらどうするだろう、他の運転手に聞いてみたいが、私の場合はまずハードな音楽を聴く、それで駄目ならガムを噛む。これくらいは誰でもやっていることだろう。泊まって新鮮な空気を吸っている…なんて時間はない。とどのつまり自分を痛めつけて覚醒するのだ。頬をつねるなんて一時的、太ももを叩くのだ。それも音楽のリズムに合わせて。大きな声で歌うこともある。朝になってズボンをめくってみるといくつものアザが出来ていることは当たり前なほど頻繁にある。
しかし、本当に疲れている時にはその「叩く」行為さえ眠気の中に消え去ってしまう。「眠れ」と悪魔が囁き始める時である。何度かの繰り返しの後、とうとう熟睡してしまうのだ。生死の境はその時間の問題である。コンマ数秒ならば助かる。数十秒なら怪我か死だ。それも車と荷物を犠牲にして。「それは大げさだ」と思うのは昔の商業軽自動車に乗ったことのない人。前部のパネルを押すと分かる。1mmはないだろう。それほどヤワなのだ。私の場合は後ろにバイクがいた。深夜にしては幸運である。完全に側道を乗り越え狭い歩道も乗り越えていたのにもかかわらず、そのショックもわからなかった。その時追越をかけ警笛を鳴らしてくれたのだ、そのオートバイが。最初は何が起こったかわからなかった、が、直ぐに飲み込めた。危なかった、目の前にガードレール。その先は崖が迫っていた。彼にはどれだけ感謝をしても足りないくらいだが、後ろに付くのが恐かったのだろう。そそくさとその場を去っていった。私も警笛を鳴らし礼をいった。

行きはまだ少し緊張しているので、それでも何とかその一回で済んだ。問題は配達を完了した後である。特に冬の寒いが日が射している関東の天気が危ない(帰りは空港に向かっているので東日本は天気が良い)。仕事が終わった安堵感、外は寒いがヒーターに朝日の心地よい暖かさ。たいていは前夜、貫徹で走った時に襲ってくる。その睡魔を「早く戻ってもう一便」なんて頑張ると命取りになる。と今では分かるがその時には欲が絡んで、そんな考えは吹っ飛んでいる。朝、寝起きの一般車は元気なのだろうが、こちらは夢の中に近い。その時も夢を見ていた。渋滞なのでソロソロと流れてる車列が余計にゆりかごになっている。気が着いたときには急ブレーキだ。その音を聞きつけた前の車両の運転手が降りてくる、私も下りる。見ればバンパーの間は数センチ、何度経験したことか…幸い事故は起こしたことはなかった。それでどうしたと言われても仕方がないが、もし、朝の出勤の時に貴方の後ろに運送関係の車が付いたら場所を移動したほうが良いとアドバイスしておこう。

一番危機感を感じたのは、帰りの箱根越えである。山の上から降りてくることになる。


★Photoはイメージです

確か夏だったと思う。大体、恐い思いをするのは夜である。幽霊とか、それらしいものを見ることもあったがそれは身体的危害があるわけではないのでそれほど怖ろしくはない(それでも自転車に乗った白い着物の男が側道から私の車に迫ってきて目の前で消えたなんてことはある、決して夢ではない)。深夜だが、眠気はなかった。関東平野に育った私には山越えの際の霧がこんなに凄いものだとは思わなかった。順調に箱根の旧道に差し掛かった途端、目の前が真っ白になった。急に囲まれたと言う感じである。30cm先が見えないのだ、本当の手探り状態。30分も走っただろうか、時速は10km/hのノロノロ運転、なかなか先には進まない。それでもガードレールやセンターラインを目安に気をつけて進む。が、それも見えなくなった。とうとう業を煮やして私は車を降りてみた。ライトは点灯したまま、無論フォグランプも点いていた。しかし、目隠しされて「鬼さんこちら」だ。車の前に回って一歩踏み出した、途端片足がずるずると沈んでいった。おっと、ともう片足を踏ん張ったが宙に浮いた1mは落ちただろうか。慌てて這い登って、今度は懐中電灯を…見えるはずもないが目を凝らす。想像の域を脱しないが漆黒の闇が広がっている。本来なら立ち木や草があるはずの足元にだ。舗装路をたどると急にカーブしていた。「どうしよう」このままでは動けない。が、停まっていたらおそらく後ろから来た車にぶつっけられる。車を置き去りにし、暫く歩くと広場があると分かる。足で探したのだ。数メートル離れたその場所まで車を移動することにした。ゆっくり、しかも慎重に。ハザードをつけてじっと待つしかない。兎に角、霧が晴れるまで…動けるようになったのは明け方だった。その間通り過ぎる車もあった。地元のよほど慣れている人なのかもしれない、ではなければ命知らずだ。結果、朝になって外へ出てみて私は鳥肌が立った。車の駐車場所に選んだ「そこ」は数センチずれていたらタイヤが落ちていた。そのまま芦ノ湖まで転落していたのだ。深夜歩いて落ちそうになった場所は絶壁の端でガードレールが丁度切れているところだった。そのままアクセルを踏んでいたら本当にあの世行き。良く停まったものだ、あの位置で。
帰りの高速道路代、数千円を節約するために危険を冒すことのおろかさを当時は分からなかったのだ。
再度繰り返すが、5年間の軽運送業を無事故で乗り切れたのは幸運としか言いようがない。仲間の会員が何人事故で消えていったことか。


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コメント 2

mobile200x

はじめまして、自分も運送業考えて、大型一種取りましたが
普通の会社に勤めております。
早朝や深夜の仕事の行き帰りに配送関係の車両を見ると
ご苦労様と思います。
いくら商品を早く欲しいと思ってもそれを運んでくれているのは
24hフルタイムで働いている方々のおかげと思いますので・・
また寄せていただきます。
by mobile200x (2006-05-14 14:25) 

tom-d1951

だんな様
コメント有難うございます。つたない、しかも読みにくい文章に目を通していただいて恐縮しております。
by tom-d1951 (2006-05-14 16:23) 

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