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悲しき軽運送屋の顛末記-20 [顛末記]


★Photoはイメージです

今まで空港内、特に貨物地区のことを詳しくは書いていない。余り微細に渡って書くと拙いと思うからだ。警備を厳重にしている場所ゆえに「秘密漏洩」と取られかねない恐れもある。なので、雰囲気だけお伝えする。空港だからと言ってそんなには広くない。正面に低い建物、手前に各運輸会社の入ったビル、奥に上下二段になった荷物倉庫といったところだ。その奥に例のトラック待機場があった。
入場時に手続き後パスを貰う、と言っても透明アクリルの中に番号のプレートが入っているだけである。しかし、常時警備員が巡回しているのでこれがないとお咎めを受ける。そんなこんなで、まずは手配係にご機嫌伺いに行く、順番の申告確認である。これをしなければ何時入ってきたか分からない、何時までたっても仕事が回ってこない。ついで会員にご挨拶、「私は何番目にきた」とアピールのためだ。ここまでの儀式を行ってから待機に入る。

会員たちと世間話をするが、ここは飛行場の一角である。兎に角ウルサイ!! 飛行機の離陸・着陸時のエンジン音は想像を絶する。会話が出来ないのだ。それも5分おきくらいに。正直言ってストレスが溜るほどである。地元のそれの近くにある民家には同情する。私は決して反対派ではないが。
表の顔である一般客の搭乗する旅客ターミナルとは少しはなれた、滑走路の真下が貨物地区なのだ。建物の奥、滑走路との間に駐機場がある。貨物機の荷物の積み下ろし場所でもある。
そこからトラクターが税関までコンテナをいくつも引いて行ったり来たりを繰り返す。建物の奥からも飛行機は見える。運送会社の社員の手が回らない時は伝票を手に荷物探しを手伝う。税関から排出される貨物は膨大な量なのだ。空輸された外国からの荷物はここから全国に配送されるのだから。

[こんなことがあった、その13]
荷物の配送は何もビルや住宅地、倉庫ばかりではない。「成田空港」から「羽田空港」と言った国際線から国内線への載せ替え、つまり飛行機への配送がある。
今回の行き先は大黒埠頭である。つまり船への配達。港にもゲートがあってどこに停泊しているか入り口で警備員に確認する。初めての港に行ってどこが何番なのかなんて場所が判る筈もなく、迷ってしまう。ましてや1隻だけが停泊しているわけではないのだ。船は連なって停まっている。
地上と違って番地がないのだから船の名前が頼り、なのだがこれがわからない。たいていは船首に書いてあるのだが、日本語とは限らない。伝票にはカタカナで記入してある。少しあせってきた、時間指定=出港時間なのだ。


★Photoはイメージです

港の中で暇な奴は居そうもない。皆働いているのだから場所を聞くのもためらいがちになる。なんていっていられない状況になってきた。仕方がないのでフォークリフトを操っている兄ちゃんに聞いてみる。幸い二区画先らしい。
そこには貨物船が停泊していた。船名は何語? 英語でないのは確かだ。違ったら拙い、船の荷物を出し入れする大きなハッチ?? が開いているのでそこから恐る恐る中へ。実は船といえばカーフェリーくらいしか乗ったことがない。まして貨物専用なんて…広い! どうやら荷は降ろした後らしい。人がいない…静かな船内は余計に不安が募る。と、階段を下りてきた、多分船員だろう。話しかけるが通じない。英語のようだが、私は片言でしかわからないのだ。もっと勉強しておくべきだった、などと今更恥をさらしても仕方がない。兎に角、伝票に書いてある船の名前を言ってみる。yesと帰ってきた。嬉しい。ここで間違いはないようだ。

ここで、この荷物を置いてくるには条件があった。伝票に「キャプテン」のサインを貰ってくることである。荷物を取りに車に引き返し、時計を見るともう出航時間である。急いでその外国人に、「キャプテン サイン」と言ってみた。「OK」といって一つ上のデッキに私を連れて行く。そうして事務室のような中でガタイのでかい筋骨隆々マンにサインを貰った。が、しかしどう見ても船長には見えない。Tシャツ姿なのだ。「ユー・キャプテン?」と聞いてみた。答えは「no」である。どうやら連れて来てくれた船員の上役、チーフらしい。彼にとってチーフ=キャプテンだったのかもしれない。

「ノー、キャプテン サイン」と何度も言ってみた。あまり通じてはいない。私のサインで良いだろう、くらいにしか思っていないのだ。携帯電話で運送会社に確認してみるが、どうしても船長のサインが必要だという。仕方がないので手当たり次第に『ウェア イズ キャプテン』『フー イズ キャプテン』『キャプテン サイン プリーズ』と荷物と伝票を差し出してやってみた。出港時間はとっくに過ぎている。下のほうからはエンジンが回転しているような不気味な音が響いてくる。
このまま出向されてしまったら、私は密出国者、いや相手の国では密入国者なのだ。パスポートなんて持っていないし、ましてや運転免許証も車の中である。部外者である私がここに居る事なんて周りにいる人間しか知らないのだ。段々冷や汗が出てきた。どでかい船の荷物室に取り残されるのか…

その時、片言の日本語が聞こえた。「キャプテンのサインか?」と言われ思わず「はい」と答えてしまった私がいた。頷いたので分かったのだろう。指を上に向けて『Come On』とおそらくいったと思う。彼の後ろを追いかけて階段をどのくらい上っただろう、一番上の部屋に彼はいた。
船長だと確認してサインを貰うのに一時間、いや本当は30分かもしれないが長い時間に感じた。そこから大急ぎで今度は階段を下りる。「早く」と自分に言い聞かせながら。下についてハッチを見るとすでに少しづつ上がり始めていた。こんな時は足が速く動くものだ。50mを6秒くらいで中年男が疾走する。
そして飛び降りた。船から…電車からドアが閉まりそうになって飛び降りたことはあるが、まさか外国船からとは思わなかった。
冷や汗が本当の汗に変わった瞬間、船のハッチが閉まった音がした。

これが空港の最後の仕事となった。私の顛末記も終盤に入る。    続く…

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