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「あえぐ夢」 懐かしき私の昭和 幼年期-6 [思い出]

私の行動範囲は5歳になって少し広がった。とはいっても、子供の足である。20~30分がせいぜいである。相変わらず独り占め(と私は思ったていた)して遊びまわっていた畜産試験場。牧草地もそうだが、特に私のお気に入りは鶏舎だった。


★鶏舎:金網で囲われた庭の部分、左右に小屋がある

鶏を数千羽、一箇所に集めて生態を調べているのだ。とはいっても、今のようなブロイラー的な金儲けの環境ではない。殆ど放し飼いと同じだ。小屋があり、寝床があり、外へ出ると勿論、逃げ出さないように金網はあるが、自由に行動できる庭がある。それが何十区画と立ち並んでいた。
何がお気に入りかといえば、鳥の羽である。鶏も羽が抜け変わる。庭や小屋の中に20cmもある立派なものも落ちている。それを集めて飾りに使うのだ。昔はインディアンなんて良く出てくる絵本や漫画があったのだ。そんな中に綺麗に並べられた羽飾りをつけ、踊っている姿が描かれている。私はそれに魅せられていた。

勿論、一般人は立ち入り禁止である。いくら昔とはいえ、知らない人が簡単に小屋の中などに入れない。以前おじいちゃんがここに勤めていたと紹介した。その繋がりで私はここの職員に可愛がられていた。
「サ、そろそろ取りに行くぞ」なんていわれて、後ろに付いて行く。職員の取りに行くのは羽ではない。卵だ。一日に2回、バケツを持ってそれを集めて回る。これで食品を作る。自分たちが食べる糧にするためではない。研究の一環だ(この場合は乳製品)。造り方を改良して世の中に公表する。今でも稲とか、作物は試験場で開発されたものを農家に広める役割は同じだ。

私は一緒に鶏舎に入ることを許されていた。こちらの目的は「羽」である。その代わり手伝いもした。子供のことなのでそんなには難しいことをするのではない。2回目の卵を収集する為に小屋へ行くのは夕方なのだ。庭で遊んでいる鶏を小屋へと入れることになる。私も一緒になって中に入るように追い立てる。まるで番犬だ。そうしてそれを確認すると境にある扉を閉める。
何故そんなことをするのだろう。夜になると野犬や野良猫が徘徊するのだ。いくら金網に守られているといっても、そこは食料をあさる動物のこと、穴を振ったり金網を壊したりして入る可能性もある。目の前に獲物がいればなおさらのことである。
ご褒美に卵をくれることは無い。しかし、いつの間にか我が家には定期的に届けられ、卵に不自由をしたことは無かった。

懐かしの昭和を描いているつもりが、ここまで余り伝わっていないと思う。当たり前だ、まだ5歳の頃の私に見聞する力など無い。ひたすら情景を描写するだけだ。現在でも田舎に行けば見られるような風景、森と畑と田んぼ、それにのどかな人々…特に我が家(預けられた家)の周りは広い敷地(東京ドームなら5~6個分はある、いやそれ以上の試験場が目の前にあるだけだ。

そんな子供の頭の中に残っていて時折、印象的に思い出されるのは午後の昼寝の時間に畳に寝そべって目をつむると木々の葉が風にざわめく音、何故か晴れた正午にラジオから流れてくるNHKの「ひるのいこい」のオープニングの音楽(これは今でも放送されているようだ)、雨の日に外へ出られなくて、廊下から雨戸を少し開け、じっと見ている庭の水溜りの水面が揺れ、船に乗ってどこかへ旅をしているように家が動く。錯覚なのだが、それがどこかへ行きたい夢に変わっている。

少し歩るき周ると友達も増えていった。同年齢はまだいなかったが、年下・年上…不思議なことに私の周りには女の子しか見当たらない。
彼女らとの遊びは「おままごと」とか、三輪車(私は持っていなかった)、人形遊び…と女の子主導である。遊び道具を持っていなかった私にとっては、それでも珍しいものばかりだった。そして、ある日、私は楽しい遊びを発見した。幼い頃に誰でも一度は経験するであろう…なんて偉そうに言える遊戯ではない。「お医者さんごっこ」と言うやつだ。


●こちらもどうぞ--------------------------------------
少し以前の失敗談 tom room:「悲しき軽運送屋の顛末記」


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pace

我がブログにおいでいただきnice!までいただき恐縮です
「懐かしき私の昭和」勝手にダブらせて読ませていただきました
私のブログのコメントにも書かせていただきましたが
tomさんは17年前に亡くなった姉と同い年のようです
ここでこんな事を書くのも失礼かとも思いますがごめんなさい
父は20数年前に亡くなり、母と億単位の借財を返してきました
そんな母も3年前に亡くなりました
弟も2ヶ月前に逝きました
妻も子供も居ますが、1人になった気がします
なんだか、そんな昭和もあったんだよな~と思っています
「悲しき軽運送屋の顛末記」も涙の中で読みました
シュチュエーションは違いますが、モンモン背負った若い衆を束ねて
3時間以上連続して睡眠をとったことが無いような人生を過ごしていました
ごめんなさい!愚痴を言っても仕方が無い
このコメント、後悔したら消させていただきます
by pace (2006-06-27 02:49) 

tom-d1951

Paceさん、お早うございます。
つたない文章を読んでいただき有難うございます。
人それぞれ、苦労の人生がありますね。私ばかりではないと勇気づけられました。私の周りも年上は殆ど亡くなりまして、精神的に頼る人がいなくなるのは寂しいものです。歳を取ると愚痴も歴史ですので大歓迎です。
by tom-d1951 (2006-06-27 14:04) 

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