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「あえぐ夢」 懐かしき私の昭和 幼年期-9 [思い出]

まだ、団扇しかない我が家にとって、夏の涼を取るには井戸に冷やしたスイカやアイスキャンディーを売りに来ると家族中でしゃぶっていた記憶がある。冷蔵庫も氷を入れる小さな箱はあったが、それも時々しか売りに来ない氷屋が頼り。暑いと繁盛するのだろう。あまり顔を見せない。冷たいものがのみたい! そんな気持ちがさせた思い出… 

 

 一つ書き忘れていたのだが、隣に家がある。今で言えば隣家があるのは当たり前、でも、昔は点在と言う表現でしか隣続きの家は無かった。唯一我が家のお隣さんだ。しかも多分に広い。だからと言って、立派なわけではない。「中村牧場」と銘打った看板が入り口にある。広いのは牛を飼っているからだ。手前に住居、先に牛舎がある。なので年がら年中、我が家(黒川家)は獣臭い…汚物の臭いが立ち込めていた。しかし人間は慣れる。毎日そこに居れば、それが普通になるから不思議だ。
そうして、私は良く隣の家に遊びに行った。子供はいない。当時はまだ中年夫婦とその息子たちだが、私にとっては大人ばかりで牧場の経営をしていたように記憶する。現在のように人の家に立ち入ってはいけないとか、研究所や試験場に入るには許可がいるなんてまるで無い、のんきな時代だ。当然のように出入りしていた私には、隣も牛や家人と接する気軽な遊び場だったのだ。だからこそ当たり前にそこにある隣家を思い出せないでいたのかもしれない。

牛はおとなしい動物だ。しかし、何かの拍子に怒る。角で引っ掛けられたりすることもある。牛舎には真ん中に通り道があり、両側に牛が入った柵がある。人間が通る時に機嫌が悪いと怪我をする。逆に慣れてしまうと、あの唾液の舌でなめられる。
どちらにしても、あまり嬉しいことではなかった。なのに何故遊びに行くのか…それは餌にする藁が気持ちが良く、それを山積にして保管してある。私はそこで、今で言うトランポリンのように飛び跳ねて遊んでいた。勿論、誰にも怒られはしない。実に鷹揚だ。しかし、その場所は牛舎の一番奥にある。あの恐怖の通り道を行かなければならない。両側から魔物の目が光る。ソーッと忍び足で歩くのだ。驚かせたら柱に突進してくることもある。大人から見ればたいしたことではないのかもしれないが、5歳の子供には山のように大きい猛獣だ。
その恐怖心も一つの遊びにはなっていたのかもしれない。ひと遊びすると牛乳を出してくれる。ここに飼われている牛は全て乳牛である。コップ一杯のこの冷たそうな牛の乳(本当に絞りたては生暖かいのだ)が後で大変なことになる。弱いとされている私のお腹に悪い影響が出たのだ。飲みなれていない人(大人でも)が、生の牛乳を飲んだら腹を壊すことがある。だから隣で貰った乳は、我が家では必ず火に通してから飲むのが慣例だった。

しかし、その場で飲ませてくれると言うのに断るわけにも行かない。それも冷やされていて美味そう…その夜、私は隣の病院へ運ばれた。下痢と嘔吐である。急性腸炎! 数日間苦しんだ後、おばあちゃんにきつく怒られた。以来「隣で飲み物をもらわない」と言う規則が我が家に出来た。更に今日まで私は牛乳が飲めなくなった。スーパーで売っている滅菌した牛乳でも。

その家には五右衛門風呂なるものがあった。土間の真ん中に鎮座している大きな釜だ。中はそのままの鉄の底だけである。「修(オサムだがシュウと呼ばれていた)ちゃん、暑いからお風呂で汗を流して行かない?」。私は普通の風呂だと思って思わず「うん」と言ってしまった。そこにある釜が風呂になるとは思っていなかったのだ。
下からドンドン火をくべる。沸いたところで、裸になる。次にすることは下駄を履くことだ(スノコを敷いて入るところもある)。そのままお湯に浸かれば足をやけどする。変な感覚だ。しかも深い。そこの「お兄ちゃん」と一緒だったからよいものの、私は茹でられるかと思った。溺れかけたり、下駄が脱げたりで大騒ぎである。だからと言って淵に掴まれば更に熱い。子供にとっては正に地獄の釜に思えた。

現在のようにプールも近くに無い、しかも泳ぎも知らない私にとっての初めての体験である。

ちなみに、この地域では氷屋とアイスキャンディー売りが「カラン、カラン」と鐘をならして、納豆屋と豆腐屋が「ぴーぷー」とラッパを吹き、パン屋がチャイム、魚屋は…時間になると毎日同じ場所にやって来た。野菜は毎朝、農家から直接リヤカーで街まで売りに行く途中に家の前を通るので、声をかける。そんな日常だ。



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少し以前の失敗談 tom room:「悲しき軽運送屋の顛末記」


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リックディアス

昔の写真を、ずいぶんたくさん、お持ちですね。
by リックディアス (2006-07-04 06:25) 

tom-d1951

リックディアスさん、こんにちは。
このPhotoはサイドバーに表示してあります「おことわり」で述べていますが、知人の方から了解済みで、お借りして掲載しております。私自身は幼少で写真は取れませんから。撮られた方は、相当のマニアで、当時自宅に現像機材を持っておりました。楽しんでいただければ幸いです。
by tom-d1951 (2006-07-04 12:12) 

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