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「あえぐ夢」 懐かしき私の昭和 幼年期-18 [思い出]

記憶なんて曖昧なものである。「あれを思い出した」「これがあったっけ」なんて思うがままに列記していくと時期が交差する。
もしかして、もっと先のことかもしれないがこの時代の出来事と勘違いしていたり、同じ事を後にも経験していてオーバーラップさせて、その時に体験していなくても膨らませてしまったり。
50年前のことなのでハッキリと覚えている方がオカシイとは思うが、適当はいけない。とはいえ、調べようの無いのも事実。何しろ私の中の昭和なのだから。

食べ物の話は何回か前に話したが、それは嬉しい楽しい美味しい食べ物。
当時はそれほどの種類があったわけではないので列記してもたかが知れている。ショートケーキはあったかもしれないが、ウチではバタークリームのそれしかお目にかかれなかった。アイスクリームもあったはずなのだが、この時の記憶に無い。
味に対して無頓着だったのか、食事のおかずもこれといって無い。鰯の焼き物、鯖の煮付け、ヒジキ、ニラ、蕨、蕗、ハスの酢漬け、長芋(とろろ)、サトイモ・ジャガイモを蒸かしたりカボチャの甘く煮たもの…殆どが大人の食べ物(まだ食料難であることも確かだったが)、今の私なら好物なのだが、子供が「好き」といえる食べ物ではない。トウモロコシも何故か、我が家は醤油で焼いたものは作ってくれなかった。消化に悪いと言われた。
黒川家に天ぷらはあったが、コロッケ、とんかつなどのフライは無い。純日本食である。どちらかといえば、美味しい食べ物ではなく、生きるための食事だったのだろう。おばあちゃんの口癖は「これは(食品の名前)体に良いんだよ」なのだ。

逆に嫌いになった食品がある。それはチーズである。気がつくとそれを食べていた。美味しい…記憶が無い。しかし毎日気がつくと口に入れていた。当時としては貴重な食品である。以前書いたように隣の畜産試験場からの調達でバターとこれだけは豊富にあった。みきばあさんも、私がひ弱なので少しでも栄養のあるものをと考えたのだろう。おやつ代わりである。

ある日、胸がムカムカしてきた。鏡を見ると顔が…体中に湿疹が出来ている。早速病院へ。最初は何が原因か解らなかったが、食生活を聞かれて原因がわかった。チーズの中毒である。「そんなものあるの?」であるが、試さない方が良い。結構苦しい思い出がある。その日から私はチーズ嫌いになった。もちろん、おばあちゃんも「食べろ」とは言わなくなった。むしろ私の目の前からそれが消えた。過ぎたるは及ばざるが如しか??


話は変るが、一年に数回、この地方にも雪が降る。その年の冬は記録的な大雪になった。
この天気に喜ぶのは犬と子供である。私も目の前にある牧草地に降り積もったスロープで遊ぶために家を飛び出した。子供である私の膝まで積もった雪に歩くのも大変だ。そんなに多く降り積もってもスキーをやる人がいなかった。雪国ではない地域で当時、レジャーとしてスキーで遊ぶ習慣が無かったのだろう。
誰の足跡も無い新雪を掻き分けて歩くのは力が要るが楽しいものだ。物置からダンボールを持ち出す。それをソリと見立てて滑ろうと言うのだ。既に何人かの子供たちが雪ダルマを作ったりして奇声を上げていた。頂上にダンボールを敷いて私は乗っかった。しかし、動かない。絶えず降り積もる雪は沈むが滑らないのだ。私の体重が軽すぎるのも要因だったのだろう。仕方が無いのでそこから雪の中にダイブ! その時、私は春の菜の花に飛び込んだ気持ち良さと同じ感じを覚えた。

それだけ雪が積もると道と畑の区別もつかなくなる。
逆に人の歩かないところを歩きたくなるのも子供心だ。30~40cmにもなると踏みしめても作物にも影響は無いだろう。もっともこんな冬場に作る者があったかどうか。
田舎には当時「肥溜め」と言うものがあった。現在は皆無だろう。人糞を肥料にするために溜めておく我が地元では直径1m50cmくらいの丸い穴である。周りは木で仕切ってあったりする。上に蓋がしてある場合もあるが、殆どがそれを入れてそのままだ。そばを通ると「プーン」と臭ったりする。

しかし、雪が積もるとその場所も分からなくなる。もう想像できるだろう。落ちた奴がいるのだ。雪の日に。しかもこれが女の子。首までドップリと浸かってしまった。近くにいた大人が急いで…では無く、手ぬぐいなどを手に巻きつけての大騒ぎ。泣いて家まで帰る後姿は痛々しい。
その子は今で言うホームレス寸前の親の元でバラック(我が家より更にボロの家)に住み、色は浅黒く服も古着を着ている、もちろん風呂も無いのでとても綺麗とはいえない傍から見れば可哀想な女の子だった。「肥溜め」に落ちた次の日から彼女は囃し立てられ苛められることとなった。
私は遠くから見ているだけで話もしなかったが(元々一緒に遊んだことは無かった)、今となっては一番嫌な奴だったのかもしれない。地方によってはご存知かもしれないが、昔から「肥溜め」にハマると「いい女」になる。と言う言い伝えがあった。まさかである…

それから十数年後、私はバスの中でその女の子を見た。
面影はタップリだが何と綺麗な容姿になっているではないか。目はパッチリ、色白で気品さえ漂う。あの言い伝えは嘘ではなかった! それも多分、彼氏と一緒に座っている。家はといえばその場所にはもう無かったが、近くの貸家にでも引っ越す経済的余裕が出来たのだろう。幸せそうである。
人間悪い時があれば、良い時もあるの極みだ。仲よさそうに二人はバスを降りていった。私は何であの苛められている時に助けてあげなかったんだろうと、勝手なことを考えていたものだ。

もし、綺麗になりたかったら、これは試して見ると良い…とはいえ、相当な覚悟と今では「肥溜め」を見つけるのが難しい。

●こちらもどうぞ--------------------------------------
少し以前の失敗談 tom room:「悲しき軽運送屋の顛末記」


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